COLUMN
医療機関における人材不足への具体的対応策
クリニック経営をされている院長先生・奥様から頂くご相談の中で、圧倒的に多いのが「人事労務」に関するテーマです。
※本記事はクリニック経営者向けに書きましたが、パートスタッフを雇用する全事業所において活用出来る手法です。
具体的には、採用・育成・処遇などの「人事労務」に関する内容ですが、実際に苦労されているクリニックも多いのではないでしょうか?
その中でもパート職員に対する対応は少し厄介な問題が多く、頭を悩ませておられる方が多くおられます。今回はそのパート職員の処遇に対する具体策をご紹介します。
●目次
パート職員が抱える経営上の問題点
雇用をしたパート職員が優秀で一生懸命に勤務してくれていると、経営者としてはその功労に少しでも報いてあげたいと思われる先生方は多くおられます。ですがその功労に報いるために時給を上げると年収の壁が発生します。
パート社員側には年収「103万円」「130万円」以内に納めたいというニーズがいまだに根強く、有能で貢献度合いが高いからといって時給単価を引き上げると年間で勤務出来る時間が短くなるというジレンマが発生します。
例えば時給1,000円のパート職員が有能なので、時給を100円引上げる事でその功労に報いたいと考えたとします。時給1,000円ですと年収103万円以内にする場合は、1,030時間以内の勤務であれば可能ですが、時給1,100円になりますと936時間となり94時間も短くなってしまいます。
1日5時間勤務をするパート職員であれば、94時間は18.8日分に相当しますから、クリニックから見ればかなりの戦力ダウンとなってしまいます。ただでさえ採用難の現在においては、普通にスタッフを採用する事ですら困難な状況で、さらにその優秀なパート社員の代替スタッフを確保することは現状ではかなり困難です。
パート職員への退職金制度の導入
優秀なパート職員へ報いる方法として活用出来るのが、パート社員の退職金制度です。パート職員の職務規定を変更し、退職金制度を導入して希望者は退職金制度がある規定に移行をさせます。
さきほどの例では、時給を100円あげると18.8日分の労働時間減少につながっていましたが、功労として時給アップをするのではなく、この功労分をポイント制の退職金として積立をしておきます。
具体的には、時給を100円上げるのではなく、1時間100円を将来受け取れる退職金として積立をしておき、退職時に加算分を支給する方法です。この方法であれば、1年間の勤務時間を減らすことなく、年間の勤務時間が1040時間ですと1年間の積立額は104,000円となり、5年間で52万円の積立が可能になります。この積立額を退職時に支給をすることで功労に報いることが可能になります。
パート職員向け退職金制度のメリット
雇用するクリニック側から見れば、パート職員の功労にきちんと報いることが出来ますし、将来的にこのパート社員が問題を起こして退職する場合には、退職金を支給しない旨を規定上に盛り込んでおけば、退職金を払わずにすることも可能ですのでメリットがあります。
雇用されるスタッフ側から見れば、確実に自分が貰えるお金が増えることになりますし、受け取る退職金は退職所得として計算ができますので、所得税の軽減メリットも受けられます。
※パート職員の退職金計算についても、通常の退職所得控除が適用できる事は大阪国税局に確認済みです。
パート職員向け退職金制度のデメリット
逆にデメリットとしては、雇用主側はこの退職金ポイントを確実に管理しておく手間と、退職金積立を確実に行っておく手間が発生します。雇用されるパート社員側は何か問題が起きて退職をしなければならない場合には、支給されない可能性はありますが、真面目に勤務をしていれば問題はありません。
特に注意しなければならないのが、退職金積立を行う際の手段です。多くのクリニックで導入されている「中小企業退職金制度(中退共)」は、法人・個人事業ともに掛金の全額を経費に参入できるメリットがあります。ただし積立された金額は、パート社員に全額が退職時に支給されてしまいます。これは、例え問題を起こして解雇した職員に対しても支給されるという大きなデメリットには注意が必要です。このためにパート職員向け退職金の積立制度は、別の運用がオススメです。
今、お金が必要なのですぐに欲しいという職員への対応策
パート勤務の職員さんの中には、お子様の教育資金などで「すぐに積立分が欲しい」というスタッフがいる場合もあります。この様な要望に対して、パート社員は1年更新の契約になっていますから、更新時には契約を更新せずに退職扱として退職金を支給し、再雇用をすることで対応が可能です。
<文責>
株式会社FPイノベーション
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