COLUMN
役員借入金の対策
法人決算書の負債勘定に「役員借入金」という科目をよく見かけます。
これは法人の資金繰り上、お金が足りなくなった時に経営者が個人資金を法人に貸付をしている事で発生する科目です。役員から見れば「貸付金」であり、法人から見れば「役員借入金」となります。
この「貸付金」は金銭債権であるために、貸付をした役員に万が一の事があった場合には、相続財産に加算されます。貸付をせずに預金で保有していても相続財産になりますが、預金であれば相続税納税は可能ですから問題ありません。ですが、貸付をする事で手元現金はなくなっていても相続税課税の対象になりますから、相続人にとっては非常に厄介な「財産」になります。
そのために、相続人が「もう返してもらわなくて構わない」と債権放棄をすると、法人は借金返済をしなくて済みますので「債務免除益」を計上する事になり、繰越欠損金がなければ法人税課税になりますので、法人にとっても厄介な借入金です。
ただ、銀行から融資を受ける場合には、「役員借入金」は役員個人からの借入金ですので、資本に近い性格があり、評価を上げる対象にはなります・・・・
ちなみに某企業の調査結果では、全国の中小企業の90%に「役員借入金」という科目があり、平均残高は3,000万円という報告もあるそうです。
特に中小企業経営者の場合、自社株や事業用資産に加えて「貸付金」という現金化できない資産を持っているケースが多く、そのために相続税評価が高くなる傾向があります。
以上の様に「役員借入金」は銀行の評価という観点からや、「ある時払いの催促なし」の借金という事もあり放置されているケースが多くありますが、「有事に備える」という観点からは何らかの対策をしておくべきだと思います。
一番手っ取り早い対策としては、毎月の役員報酬を減額して返済に充当する方法です。
例えば月額50万円の役員報酬を月額5万円に引き下げをして、45万円を借入金返済に充当する方法です。この方法を使うメリットは、報酬が5万円に下がるために所得税・住民税・社会保険料の対象額が下がりますから、可処分所得を増加させる効果があります。
ただしデメリットとしては、役員報酬額が減りますので、その分、法人所得が増加します。繰越欠損金があれば問題はありませんが、そうでなければ法人所得が上がることにより課税の問題が発生します。
次に役員報酬月額が減少しますので、これに伴いまして役員退職金の損金算入限度額の計算要素が減ることになりますので、退職金計算をどうするか?という問題が発生します。
あとは、あくまでも毎月少しずつ減少する事になりますから、返済途中で貸付をしている役員が亡くなりますと冒頭に説明をしました相続税または免除益課税の問題が発生します。これらを回避するための一つの手段として、生命保険を活用した役員借入金返済という方法があります。
契約形態を下記で生命保険契約を締結します。
契約者=法人
被保険者=役員
※貸付をしている役員
保険金受取人=被保険者または被保険者親族
※後継者である親族が望ましい
こうする事で支払保険料は
借方 役員借入金
貸方 普通預金
という経理処理が考えられます。
生命保険を使うメリットは、
〇保険金を受け取ることで、金銭債権に対する相続税納税資金を捻出する事が可能になります。
〇毎月、決まった金額を確実に返済されます。
〇個人契約の場合には、所得税+住民税+社会保険料を負担した可処分所得から支払っていますが、この契約形態の場合には、可処分所得を増加する効果があります。
〇保険金・給付金受取時は個人契約と同じ課税になります。
の4つが考えられます。
これに対してデメリットは、
〇実質保険料負担者は個人であっても控除証明書の発行が出来ません。
〇解約時の解約返戻金の取扱いについて諸説あります。
※契約者である法人が受け取るのか、実質保険料負担者である個人が受け取るのか?という議論です。
〇「借方:役員借入金」という処理がそもそも大丈夫なのか?
という3つが考えられます。
デメリットの1つ目は保険会社のシステム上、対応が出来ないのでどうしようもないのですが、厄介なのは2つ目と3つ目です。ただ2つ目のデメリットは保険商品を解約返戻金がない、もしくはあっても少額なタイプの生命保険を使えば、その問題は回避出来ます。問題は3つ目の、そもそも「借方:役員借入金」という仕訳の問題です。
これについては私が、国税局電話相談センターへ掛けて確認をしたところ、東京国税局と関東信越局は「構わない」という回答でした。ただ、名古屋国税局と大阪国税局へ確認をした際には「役員報酬です」という回答でした・・・・ちなみに平成24年1月13日の逆ハーフタックスプランの最高裁判決文では、支払保険料の1/2を役員貸付金で処理をしており、その処理については容認しています。
ご存じの通り逆ハーフタックスプランでは、満期保険金受取人を被保険者とすることで、経済的利益があるので、保険料の1/2を給与扱にするか、判決文にある貸付金にするか、または役員借入金の返済に充当するという処理があります。
満期保険金受取人を被保険者にする事で、「実質的に保険料を負担していると認められる」という見解が明示されているので役員借入金返済の処理は問題ないと思われます。
多くの中小企業が「役員借入金」という時限爆弾を抱えていますので、この対策は法人のため・ご家族のため・後継者のために経営者は真剣に考えるべき問題であると考えております。
ただ上記の様に、生命保険を活用して役員借入金返済に充当する場合には、どの商品で行うか?は結構重要なポイントとなります。役員借入金返済を生命保険で行う事を検討されている場合には、慎重に商品を選択してください。
具体的な事例はコチラをご参照下さい。
https://www.fpinnovation.jp/ケーススタディー/case4生命保険を活用した役員借入金対策.html
<文責>
株式会社FPイノベーション
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