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医療費控除と受取保険金の関係について

疾病等で多額の医療費負担が発生した場合における「医療費控除」と、疾病を発症したことにより受け取ることが出来る「保険金・給付金」の関係については、所得が高い経営者・資産家は検討しておくべきテーマの一つです。

今回は「医療費控除」と「保険金」の受給について考察していきます。

保険金の非課税規定

まず最初に個人が生命保険等から受け取る保険金・給付金の非課税規定を確認します。所得税法9条に下記のような規定があります。


所得税法第九条(非課税所得)

※一部抜粋

次に掲げる所得については、所得税を課さない。

十七 保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第四項(定義)に規定する損害保険会社又は同条第九項に規定する外国損害保険会社等の締結した保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの


次に政令で定めるものとして、所得税施行令を確認しておきます。


所得税施行令第三十条(非課税とされる保険金、損害賠償金等)

法第九条第一項第十七号(非課税所得)に規定する政令で定める保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)は、次に掲げるものその他これらに類するもの(これらのものの額のうちに同号の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額が含まれている場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分)とする。

一 損害保険契約(省略)に基づく保険金、生命保険契約(省略)又は旧簡易生命保険契約(省略)に基づく給付金及び損害保険契約又は生命保険契約に類する共済に係る契約に基づく共済金で、身体の傷害に基因して支払を受けるもの並びに心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金(以下省略)


最後に所得税基本通達も確認します。


所得税基本通達9-21(高度障害保険金等)

疾病により重度障害の状態になったことなどにより、生命保険契約又は損害保険契約に基づき支払を受けるいわゆる高度障害保険金、高度障害給付金、入院費給付金等(一時金として受け取るもののほか、年金として受け取るものを含む。)は、令第30条第1号に掲げる「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」に該当するものとする。


これらの規定は、個人が受け取る入院給付金や手術給付金・がん診断給付金・特定疾病保険金などは非課税であるという規定です。


これら条文において興味深い点が2点あります。


〇個人が受取る保険金・給付金等は非課税だが、保険料負担者が明記されていない点。

→ご存じの通り相続税法3条や5条の規定では、保険料を負担した人と受取人の関係を明確にした上で課税関係を規定していますが、所得税法においては「誰が負担した」は規定がされていません・・・

※なお所得税基本通達9-20において、発症した人と受け取る人の関係については規定されています。


〇所得税施行令30条のカッコ部分(これらのものの額のうちに同号の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額が含まれている場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分)

→このカッコ書きの部分については非課税金額=損害額-補てん額という事です。


これはまさに医療費控除の考え方と同じです・・・


医療費控除

次にこの医療費控除の規定を確認します。

所得税第七十三条(医療費控除)

居住者が、各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払った場合において、その年中に支払つた当該医療費の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)の合計額がその居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の五に相当する金額(当該金額が十万円を超える場合には、十万円)を超えるときは、その超える部分の金額(当該金額が二百万円を超える場合には、二百万円)を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。


所得税基本通達73-8(医療費を補てんする保険金等)

法第73条第1項かっこ内に規定する「保険金、損害賠償金その他これらに類するもの」(省略)には、次に掲げるようなものがあることに留意する。

(1)省略

(2)損害保険契約又は生命保険契約(省略)に基づき医療費の補てんを目的として支払を受ける傷害費用保険金、医療保険金又は入院費給付金等(省略)

(3)省略

(4)その他の法令の規定に基づかない任意の互助組織から医療費の補てんを目的として支払を受ける給付金

所得税基本通達73-9(医療費を補てんする保険金等に当たらないもの)

次に掲げるようなものは、医療費を補てんする保険金等に当たらないことに留意する。

(1)死亡したこと、重度障害の状態となったこと、療養のため労務に服することができなくなったことなどに基因して支払を受ける保険金、損害賠償金等

(2)省略

(3)使用者その他の者から支払を受ける見舞金等(73-8の(4)に該当するものを除く。)


医療費控除を使う場合には、保険金・給付金を受取った場合には、その金額を差し引くというのが医療費控除関連の規定です。

医療費控除と受取保険金の関係について

この医療費控除の規定と前述の保険金・給付金の非課税規定を合わせ読むと、以下のことが分かります。


■個人が受取る入金給付金やがん診断給付金は誰が保険料を支払った保険契約であっても非課税。

■しかし医療費控除では「医療費の補てんを目的として支払を受ける医療保険金又は入院費給付金等」は差し引いて受けるため所得が高い人(経営者・資産家)は所得税課税が通常通りされる。

※医療費控除で差し引かれるのは、「医療費の補てんを目的として支払を受ける医療保険金又は入院費給付金等」であるため、診断確定をしたことで支払われる一時金は対象外となります。

■”療養のために役務に服することができなくなったことなどに起因して支払を受ける保険金”については、非課税でありながら医療費控除の計算上、差し引かれない。

■”使用者その他の者から支払を受ける見舞金等”についても、受け取る従業員側は非課税でありながら、医療費控除の計算上、差し引かれない。

※ただし使用者が支払う見舞金についての損金算入限度額の問題は別途発生します。

 

まとめ

会社員や専業主婦などはあまりに気にする必要はないですが、所得が高く傷病を発症しても役員報酬を減額出来ない経営者や、不動産所得が発生し続ける資産家にとっては、入院給付金等を受け取っても医療費控除の対象にならず、思わぬ高額な所得税が課せられる可能性があります。

 

そのために、医療保険やがん保険ではない保険商品を上手く活用することで、医療費負担を補いつつ非課税の恩恵がうけられる可能性があります。

 

さらに従業員への福利厚生として見舞金制度や、従業員受取の保険・団体長期所得補償保険(GLTD)などを上手く組み合わせることで、より良い補償制度を提供することが可能となります。

 

 

<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

 

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