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法人にて終身保険で退職金積立をする際に気を付けるべきポイント

令和元年の法人税基本通達改定により、法人で契約する定期保険・第三分野保険(がん保険や医療保険など)の経理処理ルールが変更になりました。

 

法人で生命保険契約をすることのメリットの一つとして挙げられていた「課税繰延効果」が大幅に減少したことを受けて、支払保険料は損金計上が出来ませんが、一生涯の保障を確保しつつ途中解約時には多額の解約返戻金を受け取ることが出来る「終身保険」の活用を検討される経営者が多くなってきました。

 

今回は、法人にて終身保険で退職金積立をする際に気を付けるべきポイントを整理します。

支払保険料の経理処理

法人で支払う終身保険の支払保険料の経理処理について、明文化されたルールはありません。ただ一般的には法人税基本通達9-3-4を準用して経理処理するとされています。

 

■法人税基本通達9-3-4 養老保険に係る保険料

法人が、自己を契約者とし、役員又は使用人(これらの者の親族を含む。)を被保険者とする養老保険(被保険者の死亡又は生存を保険事故とする生命保険をいい、特約が付されているものを含むが、9-3-6に定める定期付養老保険等を含まない。以下9-3-7の2までにおいて同じ。)に加入してその保険料(令第135条《確定給付企業年金等の掛金等の損金算入》の規定の適用があるものを除く。以下9-3-4において同じ。)を支払った場合には、その支払った保険料の額(特約に係る保険料の額を除く。)については、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次により取り扱うものとする。(昭55年直法2-15「十三」により追加、昭59年直法2-3「五」、平15年課法2-7「二十四」、令元年課法2-13により改正)

(1) 死亡保険金(被保険者が死亡した場合に支払われる保険金をいう。以下9-3-4において同じ。)及び生存保険金(被保険者が保険期間の満了の日その他一定の時期に生存している場合に支払われる保険金をいう。以下9-3-4において同じ。)の受取人が当該法人である場合 

その支払った保険料の額は、保険事故の発生又は保険契約の解除若しくは失効により当該保険契約が終了する時までは資産に計上するものとする。

 

(2) 死亡保険金及び生存保険金の受取人が被保険者又はその遺族である場合 

その支払った保険料の額は、当該役員又は使用人に対する給与とする。

 

~以下省略~

 

この通達は養老保険に関する支払保険料のルールを定めたものですが、これを準用するとされているので、終身保険において死亡保険金受取人が法人の場合には(1)を準用して支払保険料は全額資産計上死亡保険金受取人が被保険者親族の場合には(2)を準用して、支払保険料の全額は被保険者に対する給与(役員報酬)とされています。

 

なお死亡保険金受取人を被保険者親族にする契約形態で、年払で保険料を支払った場合の経理処理は被保険者が役員と従業員とでは損金算入のルールが変わりますので、事前に顧問税理士や所轄税務署にてご確認下さい。

 

退職金積立の場合には引当金計上もお忘れなく

法人で生命保険を検討される方の多くは、必要な保障を確保しつつ資金を積立し、その積立金を退職金支給原資に充当することを想定されている経営者もいらっしゃいます。

 

令和元年7月8日以前の生命保険契約であれば、支払保険料の全額または一部を損金計上して積立をし、解約時には多額の解約返戻金を受け取る事が出来ましたので、非常にメリットはあったのですが、令和元年7月8日以後の生命保険契約については多額の解約返戻金を受け取るような契約内容については、支払保険料の損金割合が大幅に削減されました。

 

このために支払保険料は損金計上が出来なくても、保険商品や契約内容によっては支払保険料以上の解約返戻金を受け取る事が出来る終身保険を、退職金積立に活用するケースが増えています。

 

この場合には(役員)退職給与引当金の計上を忘れない様に注意してください。

 

引当金とは

引当金とは、将来の特定の支出や損失に備えるために、貸借対照表の負債の部(または資産の部の評価勘定)に繰り入れられる金額をいいます。

たとえば、売上債権の貸倒れ(回収不能)や賞与・退職金などの費用は、その発生原因(売上の発生、勤労の提供)の時点と金額確定(貸倒れ、賞与・退職金の支給)の時点にズレが生じます。この時引当金を設定することで、収益と費用の計上時点を対応(費用収益対応の原則)させて、適正な期間損益計算を行います。

(Wikipediaより)

 

<参考>

注18 引当金について
(貸借対照表原則四の(一)のDの一項、(二)のAの三項及びBの二項)

 将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。 製品保証引当金、売上割戻引当金、返品調整引当金、賞与引当金、工事補償引当金、退職給与引当金、修繕引当金、特別修繕引当金、債務保証損失引当金、損害補償損失引当金、貸倒引当金等がこれに該当する。

 発生の可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については、引当金を計上することはできない。

 

分かりやすく言えば、

・支出や損失が発生する原因が過去にあり

・将来に支出や損失が発生する可能性が高く

・ある程度、支出や損失の金額が計算が出来る

ものについては「引当金」を計上する必要があります。

 

例えば役員退職金については、「役員退職慰労金支給規程」を新たに定めた場合や、すでに「役員退職慰労金支給規程」がある状態で役員に就任した場合には、

1)「規定の作成」や役員就任といった事象が発生したことにより

2)将来に役員退職金を支給する可能性が高くなり

3)その支給金額も規程によって見積することが可能になる

ために「役員退職慰労引当金」を計上することになります。

 

引当金の経理処理と決算への影響

役員退職慰労引当金を計上する際の処理は以下の様になります。

 

<借方>役員退職慰労引当金繰入額

<貸方>役員退職慰労引当金

 

借方には役員退職慰労引当金繰入額を損益計算書の「費用」として計上し、貸方には役員退職慰労引当金を貸借対照表の「負債」として計上します。

 

ただこの「役員退職慰労引当金」を計上するることで損益計算書の費用に計上することで利益は減りますが、税法上で認められている損金ではありませんので、法人税申告書上ではこの金額を加算して法人所得を計算することになります。

※法人税を減少させる効果はありません。

 

そして退職金を支給する事業年度においては以下の処理となります。

 

<借方>役員退職慰労引当金

<貸方>役員退職慰労引当金戻入額

 

借方には今まで引当金を計上して決算書上で積立をしてきた役員退職慰労引当金を取り崩し、貸方にはその取り崩した役員退職慰労引当金戻入額を収益として計上します。

 

前述の通り役員退職慰労引当金は税法上で認められている損金ではありませんので、これを取り崩して戻入額を収益として計上をしても、法人所得には加算されません。そのために法人税申告書でこの金額を減算して法人所得を計算することになります。

 

引当金処理の例

例)毎年200万円を役員退職慰労引当金として計上をして10年後に2,000万円の役員退職慰労金を支給する。

 

1)毎年の処理

<借方>

役員退職慰労引当金繰入額200万円

<貸方>

役員退職慰労引当金200万円

 

2)退職金支給年度

①退職金支給の処理

<借方>

役員退職慰労金2,000万円

<貸方>

普通預金2,000万円

 

②引当金の処理

<借方>

役員退職慰労引当金2,000万円

<貸方>

役員退職慰労引当金戻入額2,000万円

 

これにより、退職慰労金支給事業年度に2,000万円を支給してこの金額が全額損金として認められた場合、引当金を計上していなければ決算書は利益が2,000万円減少しますのが、引当金を計上している場合には同額を戻入額として計上しますので、プラスマイナスゼロとなり決算書は利益が減りません。

 

さらに退職金2,000万円は損金として認められると、役員退職慰労引当金戻入額2,000万円は法人税法上の所得には加算されませんので、法人所得を計算する際に所得は2,000万円減少しますので「決算書では利益は出ているが法人所得は減少する」ということになります。

 

公共工事を受注している建設業や対外的に決算書を公表しているような法人の場合には、引当金を正しく計上することで役員退職慰労金を支給することで決算書を赤字にせずに済みます。

 

終身保険を活用して積立をする

そしてこの役員退職金の積立を終身保険を活用することで、被保険者である役員に万が一のことがあった場合の「死亡退職金」も、無事に任期を満了して退任する場合の「生存退職金」の両方に備えることが可能となります。

 

終身保険は前述の通り、法人で契約をして保険金受取人を法人に設定をすると支払保険料は全額資産計上となります。

 

そしてこの終身保険を解約して契約者である法人が解約返戻金を受け取った場合には、資産計上累計額を取り崩す事になります。この際の処理は以下の通りになります。

〇 資産計上累計額 > 解約返戻金 

※この場合には「資産計上累計額-解約返戻金=雑損失」の処理となります。

 

〇 資産計上累計額 < 解約返戻金 

※この場合には「解約返戻金-資産計上累計額=雑収入」の処理となります。

 

この解約返戻金が役員退職金の支給原資となります。

 

一連の流れの例

終身保険の加入→引当金計上→退職金支給という流れを、数字を入れて確認してみます。

 

・終身保険 年間保険料210万円

・役員退職慰労引当金 年間200万円

 

1)毎年の経理処理

①保険料支払時

<借方>

保険料積立金210万円

<貸方>

普通預金210万円

 

②引当金計上

<借方>

役員退職慰労引当金繰入額200万円

<貸方>

役員退職慰労引当金200万円

 

2)10年後に退職金支給する際の処理

①保険解約(解約返戻率が95%と仮定)

<借方>

普通預金1,995万円(2,100万円×返戻率95%)

雑損失105万円(2,100万円-1,995万円)

<貸方>

保険料積立金2,100万円(210万円×10年)

 

②退職金支給時の処理

<借方>

役員退職慰労引当金2,000万円

役員退職金支給額2,000万円

<貸方>

役員退職慰労引当金戻入額2,000万円

普通預金2,000万円

 

このような流れになります。

 

終身保険を活用する際のポイント

終身保険を活用して退職金を積立する場合のポイントを整理します。

 

①引当金計上をすること

②解約返戻率が極力高くなるように、商品を設定すること

③解約返戻率を高めるために外貨建て終身保険や変額終身保険の活用も一考だが増減リスクに留意すること

④役員退職金支給時に現金があればよいので、引当金計上額と積立額(支払保険料)は同額である必要がないこと

⑤死亡退職金として支給する可能性もあるので、保険金額もしっかりと確保しておくこと

 

以上です。ご参考になれば幸いです。

 

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<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

 

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