COLUMN
Case3:顧問税理士から決算対策の提案
※本事例は2018年の事例で、法人税基本通達が改定される前の事例です。
生命保険と法人税を考える上で参考になると思いましたので、当時の内容のままで掲載しております。
●目次
お客様概要
年商:5,000 万円
業種:IT コンサルティング業
代表者:40 代男性 創業者
ご相談内容
旧知の経営者から「今期の決算で利益が出ると税理士から言われ、生命保険を使った税対策の提案を受けた。ただ本当にメリットがあるのかどうか疑問なので教えて欲しい」との連絡が入りました。税理士の説明はその通りなのですが、経営者には200万円の保険料に対する税効果と、200万円の預金を減らす不安について考えていただきました。
顧問税理士からの提案
某経営者交流会で知り合った旧知の経営者で、今まではお互いの本業で絡むことはなく、会合であえば挨拶をする程度でした。ただお互いにどんな仕事をしているのか?は知っているのと、フェイスブックで繋がっていることもあり、生命保険のことと言えば、ということで私を思い出していただきご連絡をいただきました。
実際にお会いしてお話を聞きますと、数年前から事業が順調になってきて利益計上ができており、昨年で過去の繰越欠損金はすべて使い切ってしまったとのこと。今期より利益がすべて課税対象所得となるために、税理士から生命保険を使った課税の課税繰延を提案されているといって、設計書を見せてもらいました。
税理士より提示されている設計書は、某生命保険会社が販売している全額損金タイプの平準定期保険でした。ピークの返戻率は8年目で80%を少し超える程度でした。
税理士からは「利益が出ている間はこれで少し圧縮して簿外に積立しておき、赤字になった場合に解約をして赤字を埋めることで利益を先送りできるのでメリットがある」と言われているとのこと。もし幸いにも赤字を計上することがなければ80%超の返戻率が確保できる5年目から10年目の5年間で計画的に取り崩すことの説明まで受けておられました。ちなみに聞けば今期の利益は約1,000万円で提示されている保険料は約200万円。
資料を拝見し、お話を聞いて経営者と以下のやりとりを行いました。
経営者とのやり取り
奥田
「顧問の税理士先生は大変失礼ながら『かなりよい先生』だと思います。実際に法人税の税率は800万円を超えた部分が高くなるので、課税所得を800万円以内に抑えて納税するのが経営的にはよいと思うのです。そして保険の出口のことまでキチンと説明をしておられるのは素晴らしいと思います。ただ同じ経営者としてこのタイミングでこの保険に入ることが果たして本当によいことなのかどうかは、もう少し違う観点で検討をされた方がよいと思います」
経営者
「どういうことですか?」
奥田
「たしかに法人税上ではメリットはありますが、事実として手元の資金が200万円減るということです」
経営者
「そうなんです。もちろん預金残高はあるので保険料は支払えます。そしてメリットがあることも理解したのですが、お金が減るということに多少躊躇しているのです」
奥田
「先ほどは、法人の利益が800万円を超えると税率が高くなると説明しましたが、800万円以下の利益については低い税率で計算がされますので、トータルすると1,000万円の利益であれば約24%程度の実効税率になると思います。これを踏まえまして、このように考えて下さい」
といって簡単にメモ書きで説明をしました。
〈保険を使う場合〉
保険料100支払(全額損金計上)
解約時80(赤字で課税なしと仮定)
保険会社利益20
〈納税する場合〉
利益100
納税額24
手元76(赤字・黒字関係なく手元に残る資金で自由に使える)
奥田
「たしかに保険を使った方が、納税するより〈4〉多く手元にお金が残せます。ただしこれには『出口で課税されない』という条件付きです。それに対して納税は手元に残るお金が〈4〉少なくなりますが、納税資金〈24〉以外がいつでも自由に使えるお金です。ちなみに保険を使った場合、〈80〉のお金が自由に使えるのは5年目以降で赤字が出た場合だけです。いざという時は貯まっているお金からお金を借りることはできますが、最短でも5年は資金が固定されます。こう考えれば、〈4〉のメリットを求めて資金を固定させてまで保険に加入することが果たして本当によいのかどうか?です」
経営者
「あ〜やっとスッキリしました。そうなんです。メリットはあるのでしょうが、200万円の預金を減らすことの不安を超えるまでのメリットが感じられなかったのです。奥田さんの説明でスッキリしました!」
奥田
「私に言わせると税理士先生は、キャッシュフローを傷めないために全額損金商品を提案されたのでしょうが、本当であれば損金性を落として返戻率を高めた保険の方が保険を使うメリットがあるのです。ただしこの場合は資金を固定するのでよほど現預金に余裕がないと使いにくいプランなんです」
経営者
「私にはまだ早そうですね(笑)」
奥田
「早いか遅いかの判断は私にはできませんが、少なくとも社長が心置きなく払える保険料分だけにしておかれるのが一番よいと思いますよ」
経営者で納税に対する抵抗感が強い方は多くおられます。ですが多くの場合、節税をすれば手元現金は確実に減ります。手元現金が減れば、いざという時に使えるお金が減るということで、経営的にはあまり喜ばしくはありません。特に税効果を加味しない返戻率がそれほど高くない全額損金タイプの定期保険の活用は慎重に行いたいものです。
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