COLUMN
事業承継における生命保険活用
「事業承継」を検討する際に一番重要なのは、税対策でも争族対策でもなく、あくまでも「事業継続」であり、経営者が交代しても事業が継続していくためにどう備えるべきか?というのが出発点になります。
そして「事業承継」とは、経営者交代と財産承継をセットにした表現であり、この2つは全く別物ですので掘り下げて検討をする際には、分けて検討をした方が分かりやすいです。
なお「事業承継」は、現経営者が元気な状態で次世代に経営者の地位と財産を渡すこともあれば、現経営者の急逝や、病気・事故・介護などの状態によりやむを得ず次世代に渡すことも想定されます。
この急逝や病気・事故・介護状態の場合には、当然ながら生命保険金の支払対象となる可能性が高いので、生命保険の活用は重要な検討材料となります。
ですので事業承継における生命保険活用については、
〇現経営者が元気な状態ではない経営者交代
〇現経営者が元気な状態ではない財産承継
〇現経営者が元気な状態での経営者交代
〇現経営者が元気な状態での財産承継
の4つのパターンで検討をする必要があります。
詳しく検討をしてみます。
■現経営者が元気な状態ではない経営者交代
現経営者が急逝し、後継者が後を継ぐケースであれば、急な経営者交代が経営に与える影響を考慮して準備する保障額を検討することになります。
・経営者交代に伴い売上減少があるのかどうか。
・売上減少等以外に資金繰りへ与える影響があるのかどうか。
・死亡退職金支給の有無
この3点を踏まえつつ、生命保険の活用を検討することになります。
経営者死亡の場合は比較的簡単?ではありますが、ややこしいのが病気や介護により経営者が交代するケースです。
こちらも経営者交代に伴う影響を検討して必要保障を検討することになりますが、前述の死亡保障と比較をすると、保障コストが高額になる点と、保険会社によってカバー出来る範囲が異なるため想定されるリスクに全て備えることは不可能です。
そのために備えるべきリスクと必要資金の優先順位を明確にした上で、生命保険の活用を検討することになります。
■現経営者が元気な状態ではない財産承継
事業継続を主眼に財産承継を考えますと、検討すべき財産は自社株(経営権)と事業用不動産の2点になります。
自社株問題は、株価評価の多寡に関係なく問題を多くはらんでいますので、事業継続においては非常に厄介な問題です。ただこれについては、生命保険を活用すれば資金的な手当が可能になりますので、ある程度は問題解決が出来るかも知れませんが、厄介なのは、現経営者が要介護状態、特に認知症になってしまった場合の自社株問題です。
認知症を患うと「意思能力がない人」として扱われるために、法律行為が行えなくなります。
自社株の全部または大半を保有している現経営者が認知症になると、議決権行使が出来なくなるため、定款によっては代表者変更すら出来ないという可能性も発生します。
認知症になった場合に支払われる生命保険商品はありますが、経営者と法人については生命保険でのカバーではなく、定款の整備などの事前対策が非常に重要になります。
■現経営者が元気な状態での経営者交代
これについては生命保険で出来ることは、
・現経営者の分掌変更後の死亡退職金準備
・新経営者の事業用保障
の2点です。
当然ながら現経営者の生存退職金準備を生命保険で行うことも一考の余地はあります。ただ生命保険を活用した生存退職金準備のポイントは、退職金支給時に支払った保険料に対する解約返戻金の割合を表している「単純返戻率」が100%を超えないとメリットがない点です。
当然ながら生命保険ですから、生存退職金支給前に急逝をした場合には死亡保険金を死亡退職金に充当できるという利点はありますが、退職金積立における財務的な効果については、単純返戻率が100%を超えなければメリットがない点はご注意下さい。
■現経営者が元気な状態での財産承継
自社株や事業用不動産について次世代への渡し方としては、
・贈与
・譲渡(有償・無償)
・相続(遺贈)
が考えられます。
生前で現経営者の意思決定能力がある間は、贈与や譲渡が可能ですし、仮に認知症になったとしても相続まで待てば次世代へ財産を承継させることは可能です。
ただ自社株や事業用不動産に関する贈与や譲渡において生命保険が活用できるケースはありませんが、その後の相続発生時における遺留分対策費用としての生命保険活用は検討しておいた方が良いでしょう。
漠然と「事業承継」を考えるのではなく、このように細かく分割してそれぞれを掘り下げて検討をすると、行うべき対策の優先順位が明確になりますし、上手に生命保険を活用することができるのではないでしょうか?
<文責>
株式会社FPイノベーション
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