COLUMN

Case14:事業承継とリタイアメントプラン

〈お客さま概要〉
業 種:製造業
相談者:A社長(65 歳) 
年 商:3億円

 

既契約者のB社長から私の携帯に「同業者団体の理事をしているAさんが事業承継について悩んでいると聞いたので、キミを紹介しといた。一度相談にのってあげてくれないか?」との連絡をいただき訪問をしました。

 

某県で製造業を営んでおり、経営者のAさんはのれん分けのような形で約30年前に独立。社員十数人を抱える小さな工場を経営されていました。

Aさんと名刺交換をさせて頂いたのちに、Aさんから「Bさんから聞かれているかも知れませんが、Bさんとは同業者団体で役員をしており、よく顔を合わせるのですが、先日、飲み会の席で『事業承継について悩んでいる』と相談をしたところ、Bさんから『それならいい人を知っているから紹介しよう』と言っていただき、奥田さんにお越し頂いたのですが、奥田さんは何をなさっているのですか?コンサルタントですか」と名刺を見ながら不思議そうに聞かれました。

 

私かはら「私の本業は保険屋です。経営者専門に対応する保険屋です」とお伝えすると、かなり怪訝な顔をしておられましたので、そのまま「保険屋ですから保険を売っていますが、保険屋に会いたいという経営者はまずおられませんので、経営者の方々のお悩みや相談にお応えしつつ、必要があれば保険のご案内をさせて頂いています。今まで2,000社以上の経営者の方のご相談にお応えしてきた経験がありますので、結果的にコンサルティングやアドバイスもさせて貰っています。今日は保険の売り込みに来たわけじゃありませんのでご安心を」とお伝えするとちょっと納得されたご様子でした。

 

そこで「事業承継について悩んでおられるとBさんからお聞きしているのですが・・・」と水を向けると「そうなんです。実は数年前から、自分が元氣なうちに後継者に事業を渡したいと思っているのですが、何をどうしたらよいか分からず、数年が経過してしまい65歳になりました。このままだとマズいと思い焦り始めているんです・・・」と切り出されました。

 

お伺いすると、ご家族は奥さまとお嬢様が3名で奥さまは役員に入られていますが、お嬢様3名とも一切事業には関わっておられず、親族でない幹部を後継者にしたいと考えておられるとのことでした。

 

そして会計事務所とはよいお付き合いができておらず、ここ数年は毎年決算を組む会計事務所が変わっているそうで、今頼んでいる事務所も会計処理をするだけの事務所で事業承継に関する相談ができるイメージは一切わかないとのこと・・・困り果てて同業で仲のよいBさんに相談されたそうです。

 

「そうすると自社株の評価なんかもされてないですよね?」と聞くと「はい。一切しておりません」との回答。

 

「もし差支えなければ決算書のファイルが会計事務所から届いていると思いますので、それを直前3期分見せて頂けませんか?」とお願いをして持ってきていただきました。

 

拝見をすると、規模はそれほそ大きくはないですが、毎年コツコツと積み上げてこられた預金残高と利益剰余金が目につき「これだけの内部留保を積み上げてこられたのは素晴らしいですね。なかなかこんな法人さん、見かけないですよ」とお伝えすると、Aさんは我が意を得たりという表情をされて「そうなんです。こんな商売ですから派手に儲かることはないのです。地道にコツコツとやってきました。少なくとも固定費の半年分くらいは預金残高がないと不安になるので、それを意識して経営をしてきたんです」とおっしゃり、のれん分けをしてもらうまでの経緯やその後のご苦労などを一通りお話になられました。

 

私はうなずきながら、相づちをいれながら聞かせていただき、お話を終えられるのを待ってから「ところでAさん、Aさんは後継者に何を渡したいのですか?」と質問をしました。

 

Aさんは「は?」という表情をされながら「何を渡したいとは?」と聞かれました。

 

私から「事業承継と一言で言うのは簡単なのですが、実際に何を渡すのか?によって渡し方が変わります」とお伝えし、具体的には、


1)株式の全部または一部

2)代表取締役としての業務執行権の全部または一部

3)築き上げてきた事業(ビジネスモデル・顧客・のれん等各種権利)の全部または一部


の3つが主なものとして挙げられ、これらのうち、何を後継者に引き継がせるのか?それともすべてを引き継がせるのか?によって取るべき準備が異なってくることをお伝えしました。

 

Aさんは「基本的には全部をイメージしておりましたが・・・」と回答されたので、それを受けて私から「では、全部を渡された後、Aさんは何かされたいことはありますか?」と質問をすると、特にイメージはないとのこと。

 

それを受けてAさんには「事業を渡すことと引退をすることは全く別の問題ですが、渡した後になにをされるのかはイメージされたほうがよいと思いますよ」とお伝えし、一般的に「勇退・退職」の定義としては、

1)法人の代表者から「引退・退職」する

2)株主の地位を「引退・退職」する

3)ビジネスパーソンとして、働くことから「引退・退職」する

4)上記の全てまたは一部から「引退・退職」する


の4つが考えられるので、どうされたいのかある程度イメージをしておかれた方がよいとお伝えすると「う~ん」と考えこまれました。

 

そこで私からは「今日はじめてお会いしていろいろとお話を聞かせて頂くことが目的だったので、もしよろしければこれから事業承継についてご一緒に考えていきませんか。必要であれば税理士や公認会計士で事業承継に強い専門家もご紹介できますから、今後の方向性をご一緒に考えていきましょう」とお伝えすると、Aさんからは「そうですね。今すぐこの場で結論が出るものでもないので、これからもいろいろと相談に乗ってください」とおっしゃていただき、まずは申告書・決算書3期分のコピーをすべてお預かりしました。

 

Aさんには「まずは株価評価を行って、現状の会社の価値がどのくらいになっているのかを試算します。その上で、先ほどお伝えした『何を渡したいか』と『渡した後はどうしたいか』と合わせて『セカンドステージの人生を豊かにするためにどのくらいのお金がほしいか』の3点を次回までにぼんやりでよいので決めておいて下さい」とお伝えしました。

 

ここまでお伝えするとAさんから「とりあえず今日、来ていただいてなんとなく道筋が見えた様に思います。ありがとうございました。ところで、今後奥田さんにご相談をしたりお手伝いをお願いする際に費用はどのくらい掛かるのですか?よろしければ料金をご提示いただけると安心してご相談ができるのでお願いします」と言われたので「Aさん、冒頭にお伝えしました様に私は保険屋ですから、保険商品をご契約頂くことで事業が成り立っています。今回のご相談の中で必ず保険が必要になる場面がありますので、その際は私の方からご提案をさせていただき、ご契約を頂ければそれで十分です」とお伝えすると、「あ、そうでしたね。そうおっしゃっていましたね(笑)」と笑っておられました。

 

非常に重要なポイントは「事業承継とリタイアメントは違う」ということです。そして「何を渡すのか」「渡した後はどうするのか」「その際に幾らほしいのか」という3点が決まれば、おのずと取るべき手法や手段が決まってきます。事業(医業)承継について、何をどうすれば良いか分からないという方は是非参考にしてください!

 

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<文責>

株式会社FPイノベーション

代表取締役 奥田雅也

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