COLUMN
Case10:小規模法人における就業不能リスクへの備え
<相談者概要>
業 種:不動産業
相談者:Aさん 創業経営者(50 歳代)
年 商:1億円
2020年に入ってからの新型コロナウイルス感染症の拡大により、もし自分が新型コロナウイルス感染症に罹患をしたら?と不安になり、生命保険を検討したいと思った時にたまたま弊社を思い出して頂き、ご連絡を頂きました。
初回の打ち合わせは緊急事態宣言が出ていた4月下旬でしたので、私は大阪・Aさんは東京と離れていることもありWebミーティングシステムを使ってのヒアリングでした。
ヒアリングをした内容は以下の通りです。
- 現在は、自宅の住宅ローンに付帯している団体信用生命保険が個人であるだけで、生命保険には法人、個人ともに全く加入していない。
- 法人は事務員がいるだけで、実質的にはAさん1人で行っており、有事の際は法人を清算することが前提。
- ご家族は奥様とお子様二人で、長男は大学生・長女は高校生。
- Aさんが法人に貸付をしている「役員借入金」の残高が約1000万円ある。
- タバコは吸わず、持病治療のために投薬中である。
この内容を踏まえて、簡単に経営者が考えるべき法人・個人の生命保険活用方法を説明。その上で備えるべき保障は、
①法人清算費用
②ご家族への保障としての死亡退職金
③実質1人法人であるため休業保障
④がん等の高額医療費が掛かる疾病への保障
の4点であることをお伝えすると、Aさんからは「保障は備えたいが、売上変動が激しい仕事であるため、できるだけコストは抑えたい」とのご意向を頂き、プランニングをすることとなりました。
前記内容を踏まえて、私がプランニングをした内容は以下の通りです。
❶①と②を兼ねて法人での就業不能を保障する収入保障保険
❷終身医療保険とがん保険
❶の収入保障保険は、就業不能を保障するタイプを各社販売していますが「就業不能保険金」の支払事由が各社によって微妙に異なることと、それにより保険料も異なりますので、
•就労不能の保障範囲が広く保険料が高いA社
•保障範囲は少し狭いが保険料は安いB社
の2社をピックアップしました。
そして❷の第三分野保障ですが、これについては、契約者=法人・被保険者=Aさん(代表)・給付金受取人=Aさんとする契約形態で、毎月の支払保険料を役員借入金返済に充当することを想定しました。
事前に上記設計内容をメールで送り、後日、Webをつないで詳細な説明を行いました。
まずは❷については、両方合わせて月額の保険料が2万円以内で、保障内容はかなり充実させていることもあり、即決でご契約をされるとのことでした。
ただ法人契約にして支払保険料を役員借入金返済にするスキームについてのメリットとデメリットを説明している中で、デメリットの一つある「法人契約であれば生命保険料控除の対象にできない」という点を踏まえてAさんから「個人で全く生命保険に入っていないことを考えると、個人契約にして毎月、役員借入金の返済を保険料分だけ行う方が良いのではないか?」とのご指摘を頂きました。
それはその通りなのですが、私の個人的な経験で申し上げますと、法人から個人への返済を毎月キチンと行える経営者はごくわずかで、法人の資金繰り状況を見て返済額を調整したり、または返済をすることを忘れたりして、結果的にあまり役員借入金残高が減らない状況を数多く見てきましたので、毎月資金移動をキチンとして役員借入金を確実に減らせるのであれば問題はないことを説明しました。
その上で、
- 法人クレジットカードがあれば、契約者は個人にして法人クレジットで支払い、保険料相当額を借入金返済処理をする
- 医療保険を個人契約・がん保険を法人契約にすれば、医療保険だけで年間8万円の保険料を超えるので「介護医療保険料控除」は満額使える
の2つの方法を説明。Aさんからは、法人クレジットカードを作っているので、クレジットカードを利用する方向で話はまとまりました。
次に収入保障についてですが、保険料負担的には【保障範囲は少し狭いが保険料は安いB社】ですが、ただ保険金支払となる「約款所定の就労不能障害状態」が微妙であることを説明しました。
保障内容で見ると【就労不能の保障範囲が広く保険料が高いA社】がオススメであることを説明しました。Aさんはかなり悩まれており「もう少し検討をしたい」とおっしゃられました。
ただAさんの場合、持病をお持ちで投薬中なので、診査結果によっては保険会社が引受条件を提示してくる可能性があります。「よろしければ先にA社とB社の診査ならびに終身医療保険について、事前査定をして保険会社の引受条件を確認してみてはいかがでしょうか?その結果を踏まえて最終的なご判断を頂ければと思いますがいかがでしょうか?」とお伝えすると「確かにそうですね。そうしてください」と了承を頂きました。
半年前に人間ドックを受診しているとのことでしたので、人間ドック結果表扱いとして各保険会社の事前査定を行うことにしました。
緊急事態宣言が解除され、東京へ行く際にAさんのオフィスへ立ち寄らせて頂き、各社の告知書記入と人間ドック結果表のコピーをお預かりしました。
その際もAさんは「お恥ずかしながらまだ迷ってます」と苦笑されていました。私からは「お気持ちは分かります。保障が得られるとは言え、保険料はそれなりの金額になりますからね…。自分も経営者として思うのは、『有事の際に耐えられるだけの現預金があるかどうか?』が重要で、十分にあれば保険なんて不要ですが、なければ保険を掛けておかないと家族や取引先に迷惑をかけることになりますからね。お恥ずかしながらウチは十分な現預金がないので、保険料コストを負担して『リスク転嫁』することを選んでおります。私なんでガンになれば1億円が入ってくる保険にかなりの保険料を負担して入ってますから」と笑ってお伝えすると「なるほど…」とAさんは真剣に考えこまれていました。
後日、各社から事前査定の結果が出そろい、無事に各社とも無条件引受の回答が出ましたので、その旨をAさんにお伝えすると「先日、奥田さんがお見えになられた時におっしゃっていたことが頭に残っており、確かに自社の状況を考えると自分が病気になって働けなくなることを考えると、毎月の保険料コストを負担しての保障範囲の広いA社にすべきかなぁ~、と思っています」とおっしゃり、A社の収入保障保険を選択されました。
事業のリスクマネジメントを考えた場合、事業存続のためにコストを抑えて収益と現預金を確保することも重要ですが、経営者が働けなくなるリスクは死亡リスク以上に発生頻度が高く、発生時における経済的損失も大きいリスクであるため、この部分に対してある程度のコスト負担をしてもリスク転嫁をする必要があるのは事実です。
私もAさんも同じ選択をしましたが、当然ながら毎月のキャッシュフローを大きく棄損しない保険料範囲であることは前提条件です。このように考えますと、リスクマネジメントを考える上で財務は不可欠であるということを痛感した事例でした。
<文責>
株式会社FPイノベーション
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