COLUMN
Case2:取引先の信用不安
売掛債権を保全する有効手段は?
●目次
お客様概要
業種:建具据付工事業 創業40 年。(大手、中堅ゼネコンの下請が中心)
年商:4億
社長:40 歳、2代目。
<相談内容>
仕事を受注している中堅ゼネコンA社について信用不安の噂が出ています。売掛債権が約2,000万円あり、このA社に何かあると、当社は壊滅的なダメージを受けます。売掛債権を補償する保険があると聞いたのですが・・・・。
P社長は、私のご契約者であるQ社長の紹介で地方から大阪まで相談にお越しになりました。P社長、Q社長ともA社から工事を受注しており、現場でよく顔を合わせては、A社の噂について雑談をしていたそうです。そんな折りQ社長が「ウチは売掛債権に保険を掛けているし、その他万全に手配をしているから大丈夫」と言われたのがきっかけで、紹介して頂きました。お越しになった時、P社長は売掛債権が回収できなくなるかもしれない不安で、あまり夜も眠れず憔悴したご様子でした。
売掛債権の保全方法
経営者にとって新規営業以上に重要なテーマは取引先の与信管理です。仕事を受注しても代金を支払って貰えなければ、大損失を被ることになります。そのために経営者は仕事を受注する以上に、取引先の与信管理には細心の注意を払っています。
売掛債権を保全する金融商品として、銀行などが手がける①ファクタリングや、保証会社が行う②債権保証商品の他に、損害保険会社が販売している③取引信用保険があります。取引信用保険は、取引先が倒産や会社更生手続きの際に回収できなくなった売掛債権を一定割合で補償する保険商品です。ただ、保険を付保する際には保険会社の与信審査があり、与信状況によって補償される売掛債権の割合が決まります。P社長には取引信用保険の概要を説明し、すぐに全取引先リストと取引先ごとの債権残高のリストを提出して頂くように依頼をしました。
数日後、届いたリストに基づいて保険会社数社と打合せを行い、各社へ与信調査の依頼を行いました。その結果、損保B社だけがA社債権に対して保険を付保できるとの回答で、他の保険会社は与信状況から補償できないとの回答でした。この引き受けができるB損保にて、取引信用保険をご契約頂きました。ちなみに取引信用保険は、全取引先を付保対象にする必要があります。保険の対象となる取引先は「継続的な取り引きをしていること」が条件ですので、単発の取引先は対象外となりますので注意が必要です。
ただ問題が1点あり、B社の契約では債権残高約2,000万円に対して、約1,500万円の補償しかできません。他の保険会社が引き受けないことを思えば1,500万円でも十分な補償と言えるかも知れませんが、残り500万円の補償についても手当をしておく必要があります。このことをP社長にご説明をして納得して頂いた上での契約だったのですが、私はこの500万円が気になっていたので、ご契約後に社長を訪問して対策の打合せを行いました。
取引信用保険でカバー出来ない場合は・・・・
決算書などを出して頂き、中身を見ていると資産勘定に「前払保険料」が数百万円計上されているのを見つけました。この内容を尋ねると、取引先のお付き合いで長期平準定期保険を数年前から掛けていることが分かりました。
決算書を見ながら必要保障額を検討していると、偶然にもお付き合いで入った長期平準定期保険の保険金額で法人での必要保障額を満たしていることが判明。そのために万が一、A社が倒産して取引信用保険の支払を受けた際に、不足部分が出た場合には、この生命保険を活用することを説明しました。P社長も500万円の不足部分は気になっておられたご様子だったので、この説明をした瞬間にP社長の顔に安堵の表情を浮かべました。
実際に長期平準定期保険を活用する手法としては以下の4点が考えられます。
- 契約者貸付を受けて資金調達をする
- 解約をして返戻金を受け取り、新規に保険契約を行って保障を継続する
- 期間短縮を行って責任準備金を引き出し、保障は継続する
- 10 年定期保険へ変換する
簡単にこれらの手法を説明し、P社長もかなり安心されました。後日、社長から電話があり「奥田さん、取引信用保険って経営者にとって精神安定剤やね。おかげであれから夜もぐっすり眠れて体調もいいよ」と笑って話されていました。
事故発生
ところがご契約を頂いた2ヵ月後、A社が振出した手形が決済される少し前に会社更生法の申請手続きを行い、社長の不安が的中した形になりました。万全の手配をしているとは言え、電話を掛けてきたP社長はかなり不安なご様子でしたので「とりあえず保険金支払を含めて私ができることは全力で対応させて貰います」とだけお伝えをして、保険金請求手付きを開始しました。
実際にB損保から保険金が支払われるまでは1ヵ月半近く要しましたが、約1,500万円が社長の法人口座へ着金の確認ができた時は私もかなりホッとしました。保険金支払後に、P社長を訪問して打合せをすると、当初に打合せをした長期平準定期保険については、期間短縮で対応されて責任準備金を数百万円引き出したとのことでした。これによりA社の更生法申請でも、経営的には最小のダメージで切り抜けられました。
取引信用保険の違う活用法
この際に私から、取引信用保険を活用した新規営業展開を提案させて頂きました。取引信用保険は、保険期間中に増えた新規取引先を保険対象に追加できます。この際に保険会社はもちろん、新規取引先の与信審査を行い、引き受けができるかどうかを判断します。この機能を上手く活用すれば、新規取引先の与信判断を保険会社へ委ねられます。
私はこの機能を積極的に活用し、新規営業をガンガン行って頂くことをP社長に提案しました。新規取引先の与信を気にしなくて受注ができるとなると、これほど有り難い話はありません。
実際にこの提案を行ってから、新規取引先の与信調査依頼がかなり舞い込んで来ました。中には引き受けができないケースも多くありましたが、新規取引先で保険が付保出来ない場合は現金取引や利益上乗せをして強気な営業を行い数社受注をしていたことには驚きました。もちろん経営的には万が一の際にはダメージが少ない金額に抑えて受注されていました。
その結果、決算期前に電話が掛かって来て「今期は奥田さんのおかげでかなりよい決算になりそうです。来期以降の見通も立ってきたので、決算対策の保険をお願いしたい」と言われました。取引信用保険で1,500万円の保険金を支払ったB損保は、損失を被りましたが、その後に取引先を増やして追加保険料を支払い、さらにはB損保の子会社で年払保険料500万円の逓増定期保険をご契約頂いたので、結果的には「三方よし」になった事例です。
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